インハウス化が得になるかどうかは、広告費の規模で決まります。
判断の目安は月100万円。
それ以下なら代理店委託、それ以上なら内製化を検討する価値がある、というのが実務上の分岐点です。
理由は単純で、代理店手数料は広告費に比例して増えるのに対し、人件費は固定だからです。
広告費が小さいうちは手数料のほうが安く、大きくなると人件費のほうが安くなります。
ただし、この計算には多くの人が見落とす隠れコストがあります。
そこを含めて判断しないと、内製化した途端に成果が落ちます。
この記事の要点
- 損益分岐の目安は広告費 月100万円
- 人件費だけでなく、学習コストと属人化リスクを計算に入れる
- 全部か無かではない。ハイブリッドが現実解になることが多い
1. コスト構造の違い

図1:代理店は変動費、インハウスは固定費。交差点が損益分岐点になる。
| 代理店委託 | インハウス | |
|---|---|---|
| 費用の性質 | 変動費(広告費の20%前後) | 固定費(人件費) |
| 少額時 | 割高(最低手数料の影響) | 割高(人件費が重い) |
| 大規模時 | 割高(手数料が膨らむ) | 割安(人件費は変わらない) |
| ノウハウ | 社外に蓄積 | 社内に蓄積 |
| 立ち上がり | 早い | 遅い(習熟に数か月) |
| 属人化リスク | 低い(会社対会社) | 高い(担当者の退職で停止) |
2. 損益分岐点の計算
計算は単純です。
代理店に払う手数料と、担当者の人件費のどちらが安いか。
| 広告費(月) | 代理店手数料(20%) | 内製の人件費目安 | 有利なのは |
|---|---|---|---|
| 30万円 | 6万円 | 月20時間 × 時給3,000円=6万円 | ほぼ同等 |
| 50万円 | 10万円 | 月25時間 = 7.5万円 | インハウス |
| 100万円 | 20万円 | 月40時間 = 12万円 | インハウス |
| 300万円 | 45万円 | 月60時間 = 18万円 | インハウス |
数字だけ見ると、広告費50万円あたりから内製が有利に見えます。
しかしこの表には、次の章で説明する隠れコストが含まれていません。
それを加えると、実際の分岐点は月100万円前後まで上がります。
なお、運用にかかる時間は広告費に比例しません。
広告費が10倍になっても作業時間は3倍程度です。
この非比例性が、大規模になるほど内製が有利になる理由です。
3. 見落とされる隠れコスト
内製化の失敗は、ほぼすべてこの3つのどれかです。
学習コスト
広告媒体の仕様は頻繁に変わります。
担当者が仕様を追い、テストし、判断できるようになるまでに3〜6か月かかります。
その間の成果低下は、実質的なコストです。
属人化リスク
担当者1人に依存すると、その人の退職や異動で運用が止まります。
引き継ぎ資料がないまま止まると、アカウントの設定意図が誰にも分からなくなります。
代理店なら会社対会社の契約なので、担当者が変わっても運用は続きます。
判断を相談する相手がいない
成果が落ちたとき、原因が「自社の商品」なのか「運用」なのか「市場環境」なのかを、社内だけで切り分けるのは困難です。
比較対象を持たないことが、内製の最大の弱点です。
代理店は複数アカウントを見ているため、相対的な判断ができます。
見落としやすい具体例
内製化直後によく起きるのが、学習期間を無視した設定変更です。
Meta広告では広告セットあたり週50件のコンバージョンが最適化の目安とされ、この期間中に予算やターゲティングを大きく変えると学習がリセットされます。
仕組みを知らないまま「成果が出ないから」と毎日設定を触り、永久に最適化されない状態に陥るケースが少なくありません。
4. インハウスに向く条件・向かない条件

図2:広告費・体制・継続性の3点で判断する。
向いている
- 広告費が月100万円以上で安定している
- 専任または専任に近い担当者を置ける
- 商品理解が成果を大きく左右する(専門性の高い商材)
- クリエイティブを内製できる体制がある
- 広告を今後も継続する方針が固まっている
向いていない
- 広告費が月100万円未満
- 担当者が他業務と兼務(片手間になる)
- 繁忙期だけ配信するなど、運用が断続的
- 社内に広告経験者がいない
- 担当者が1人しかいない(属人化が避けられない)
5. ハイブリッドという選択肢
全部内製か、全部委託かの二択ではありません。
実際に多いのは、工程を分ける形です。
| 工程 | 内製 | 委託 |
|---|---|---|
| 戦略・予算配分の決定 | ● | |
| 日々の入札・配信調整 | ● | |
| クリエイティブ制作 | ● | |
| 分析・改善提案 | ● | |
| LP改修 | ● |
特にクリエイティブは内製に向いています。
商品を最もよく知っているのは自社であり、広告の成果を最も左右するのがクリエイティブだからです。
逆に、日々の配信調整や媒体仕様の追随は、専門会社に任せるほうが効率的です。
もうひとつの形が「内製化支援」です。
当面は代理店が運用しつつ、その判断根拠を共有してもらい、社内に知見を溜めてから移行する。
移行期の成果低下を避けられるため、リスクの小さい進め方です。
6. よくある質問
Q. 内製化すると成果は上がりますか? A. 上がるとは限りません。
上がるのは商品理解が成果に直結する商材の場合です。
逆に、媒体の仕様理解や運用テクニックが効く領域では、専門会社のほうが強くなります。
Q. 未経験者でも運用できますか? A. 配信を開始すること自体は可能です。
ただし成果が出ない原因を切り分けられるようになるまでには時間がかかります。
未経験から始めるなら、少額で試しながら学ぶ期間を設計してください。
Q. 代理店から内製化に切り替えるとき、注意点は? A. 広告アカウントの名義を必ず確認してください。
代理店名義で作られている場合、契約終了とともにアカウントごと引き上げられ、過去の配信データも機械学習も失います。
切り替えの前に、広告主名義への移行が可能か確認が必要です。
Q. ツールを入れれば内製できますか? A. ツールは作業を効率化しますが、判断はしてくれません。
「何を根拠にこの設定にするか」を決めるのは人間です。
ツール導入は内製化の前提条件ではありません。
まとめ
- 損益分岐の目安は広告費 月100万円。 それ以下なら委託が合理的
- 隠れコスト(学習・属人化・相談相手の不在)を計算に入れる
- 工程で分けるハイブリッドが現実解。 クリエイティブは内製、配信調整は委託
この記事について
- 執筆:合同会社Nexum(広告運用・Web制作支援)
- 最終更新:2026年8月28日
- 制作方法:自社の広告運用業務における工数実績と、各媒体の公式仕様をもとに構成しています。記載の金額・時間は一般的な目安です。
